俺ストーリープロジェクト

自分と周囲の小さな話の記録

白昼夢

父が、突然同居してた姉や姪に激怒して、しばらくするとケロッとしてそれを忘れているという事が何度かあった。調べると、典型的な認知症の初期症状だった。

 

自分を認知症とは認めたくない父は、病院の「ものわすれ外来」で診てもらっても「俺をボケ老人扱いしやがって」と不満をこぼしていたが、その一方で何かをあきらめている風でもあった。

 

東京に住んでいた自分は父を病院に連れて行く為に実家に戻った。二人きりになった時に、父は「最近、妙な白昼夢を見る」と訥々と話し出した。

 

父の寝室の窓が開き、昔の会社の同期の女性が窓からその時の姿のままでやってきて、姉と打ち合わせしてみんなで旅行に行く、というものだったらしい。

 

内容だけだとただの整合性のない夢の話だが、夢ならでは目覚めた時の「変な夢だったな」という感触は残らず、その白昼夢は現実と全く地続きだったそうだ。

そんなことが数回続き、自分に何か異変が起きているという自覚はあったようだ。

 

父の認知症は進行し、転倒したのが原因で硬膜下血腫を起こして入院した。

処置後に面会に行くと、暴れないように拘束された父は自分を息子と認識できず、「田中さん、僕は挨拶は結構ですよ。器じゃないですから」と笑いながら言ってきた。きれぎれの言葉の内容から、どうやら会社の朝礼で何か訓示を述べてくれと言われている状況の白昼夢を見ているようだった。

それが父との最期の時間だった。