俺ストーリープロジェクト

自分と周囲の小さな話の記録

白昼夢

父が、突然同居してた姉や姪に激怒して、しばらくするとケロッとしてそれを忘れているという事が何度かあった。調べると、典型的な認知症の初期症状だった。

 

自分を認知症とは認めたくない父は、病院の「ものわすれ外来」で診てもらっても「俺をボケ老人扱いしやがって」と不満をこぼしていたが、その一方で何かをあきらめている風でもあった。

 

東京に住んでいた自分は父を病院に連れて行く為に実家に戻った。二人きりになった時に、父は「最近、妙な白昼夢を見る」と訥々と話し出した。

 

父の寝室の窓が開き、昔の会社の同期の女性が窓からその時の姿のままでやってきて、姉と打ち合わせしてみんなで旅行に行く、というものだったらしい。

 

内容だけだとただの整合性のない夢の話だが、夢ならでは目覚めた時の「変な夢だったな」という感触は残らず、その白昼夢は現実と全く地続きだったそうだ。

そんなことが数回続き、自分に何か異変が起きているという自覚はあったようだ。

 

父の認知症は進行し、転倒したのが原因で硬膜下血腫を起こして入院した。

処置後に面会に行くと、暴れないように拘束された父は自分を息子と認識できず、「田中さん、僕は挨拶は結構ですよ。器じゃないですから」と笑いながら言ってきた。きれぎれの言葉の内容から、どうやら会社の朝礼で何か訓示を述べてくれと言われている状況の白昼夢を見ているようだった。

それが父との最期の時間だった。

隣りの庭

知人が隣の家の庭からいつも異臭がすると困っていた。

その家は高齢の老人夫婦が住んでおり、犬と猫を数匹飼っていて、特に猫は出入り自由にしていた。

 

庭からの異臭は恐らくその猫がフンをしてるか、犬の散歩に出ずに庭にフンをさせて片付けないからだろうと思っていた。隣りの庭にはやはりフンと思しき形状のものが見えた。いつも朝にその匂いがするので、文句を言ってやろうと早朝に待ち伏せして画像を撮って証拠を押さえる事にした。

 

そしていざ早朝に待ち構えた先で眼にしたのは、犬でも猫でもなく、その家の婆さんが自分の庭に野糞を垂れる光景だった。

知人は狼狽して、とはいえ証拠は押さえなくてはという事で婆さんの脱糞シーンを撮影はしたが、文句を言いに行くには憚れ、とはいえ迷惑の証拠を消す訳にもいかず、スマホ内にその光景が残ったままになっているらしい。

朝のトイレ

 ある会社に朝から打ち合せに行った。途中で便意を催したので、その企業が入っているビルのトイレに入ったが、大の個室は一つしかなく塞がっていた。

 

他に人がいなかったので待つことにした。すると、個室の中から「うぉぉぉぉん…うぅぅぅぅぅん…あああああああ…」と切なげなおっさんのうめき声が聞こえてきた。そのうめき声は一定間隔で発していた。踏ん張っている風でもあるが、痛みにこらえている風でもあった。痔か…。

 

そこに掃除のおばちゃんがやってきた。そこに響く「うぉぉぉっ……あああっ…うぅぅぅっ…」というおっさんのうめき声。おばちゃんは待っている自分に目配せをして無言でゆっくりと首を横に振った。

そのジェスチャーだけで、「ここのトイレは毎朝このおっさんに占拠されてるの。しばらく開かないから別のトイレに行きなさい」というおばちゃんのメッセージを受け取った。そこには完璧な以心伝心があった。

 

あのビルのトイレは、まだあのおっさんに毎朝占拠されているのだろうか。

集中治療室

十数年前、母が癌で他界した。末期となってからターミナルケアを行う施設に入院してそう経ってないある夜、様態が急変したと連絡が受けた。病院の集中治療室についた頃には母はチアノーゼを起こして体中がむくみ、自分たちがよく知る母ではなくなっていた。

 

心停止をした後の蘇生の処置で母の心臓は動きだした。父と自分は黙り、姉は泣きながらずっと大声で呼びかけていた。だが当然返事はなかった。

  

夜が明けた頃に再び心停止をし、もう戻ってくる事はなかった。

姉はより一層激しく泣いてしまっていた。

  

すると、病院のスタッフが申し訳なさそうにして後ろからそっとこちらに言った。

「あの、他の方もいるので、静かにしていただけますでしょうか」

  

後ろをふと見ると、割とすぐ後ろについたてがあり、その向こうに酸素吸入をしている老人がやはり申し訳なさそうにこちらを見ていた。

  

集中治療室に相部屋が存在するとは知らなかった。

というより、あの部屋は集中治療室だったのだろうか。

あの日

友人は東日本大震災の発生した時、山手線某駅前のラブホテルでデリヘル嬢を待っていたそうだ。

 

 

その日と翌日は久しぶりの連休で、M性感のソフトMコースで予約し、ウキウキしながらホテルで嬢を待っていた。

例の地震が発生し、大きな揺れと共に友人は「これは避難した方がいいかもしれない」と部屋を出ると、外で指名したデリヘル嬢が腰を抜かして座りこんでしまっていた。

 

 

半泣きになって動けない嬢のそばで「大丈夫、怖くないから、そばにいるから」と手を握って励まして、彼女が落ち着くのを待った。「俺はいじめて欲しかったんだがなあ」と内心思いつつ。

 

 

幸い、ホテルでの被害はなく、嬢が落ち着いた所で帰ってもらった。当然この日は店には支払いはなかったが、彼は店がキャンペーンでやっていたホテル代キャッシュバックの三千円をちゃっかり貰って帰路についた。

 

 

電車がことごとく止まっていて、しょうがないので彼は3時間かけて歩いて帰った。帰ってニュースを見て初めて、被害の重大さに気付いたそうだ。

このブログの内容

自分の周りのエピソードを書き留めておこうと思った。

今まで何かあるとはてブブコメに書いていたような事。

 

 

「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」の下世話極小版みたいなイメージに、と思ったが、あれは「不思議な出来事」という縛りがあった。でも、ここに書きとめるものには不思議要素は余りないものと思われる。

 

あとは当然だけど他人絡みのものは話の本質が変わらない程度のフェイクを入れつつ。