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俺ストーリープロジェクト

自分と周囲の小さな話の記録

ランジェリー派

知り合いのご婦人と婦人用品店の前で会ったので、挨拶と立ち話をしていた。

すると、婦人用品店から中肉の壮年男性が出てきた。

彼はご婦人に挨拶をし、他愛のない話を二言三言かわすと、彼は去っていいた。

 

彼が去ってからしばらくして小声で耳打ちしてきた。

「さっきのおじさん、いつも女性用下着を履いてるのよ」

プノンペンの安宿ノート

学生時代に友人に誘われて東南アジアに貧乏旅行に行った。

安宿の前ではバイクタクシーの兄ちゃんが日本人旅行者に「ガンジャ、シャゲキ、オンナ」と声を掛けていた。

こういうポン引きみたいな所から買うと、グルになってる警察官に捕まって法外な賄賂を請求されるというのが当時の定説なのでスルーして、市場に野菜や果物と一緒に売ってる大麻を探しに行った。旅の目的はそれしかなかった。

カンボジアでも一応違法ではあるものの実際黙認状態であったらしいが、この時はちょうど10日くらい前に一斉に摘発があったらしく、市場から大麻は綺麗になくなっていた。

 

大麻に限らず、国内では値が張る脱法ドラッグ扱いのものを安価でできる為にやりに来る連中も結構いて、安宿のノートにはそこに泊まった旅行者が書いたある薬物の接種のやり方や分量親切に書いてあった。

が、その下に「このやり方でこの量だと致死量です。いい加減な事書くな!」とでっかく書いてあった。

おおらかな時代だったと思う。

ラブホを出禁

ラブホテルでバイトをしていた事がある。

車かタクシーで来て、入り口で部屋を指定し、駐車場からそのまま部屋に入る方式のラブホだった。高級路線の走りで、ラブホにしては美味しい料理やジャグジー風呂などの施設が充実しており、結構繁盛していた。

 

カップルはもちろん、男一人で来てあとはデリヘル嬢が来るというパターンも多かった。こういう客の方が風呂はシャワーだけだし、時間が短いので無茶はしないしで楽だった。

 

その中で、一人変な客がいた。男一人で来て、何もせず、ベッドの上で脱糞だけしていくのである。たまに浣腸プレイなどでベッドや風呂が汚されてるパターンもあったが、その客は他に何するでもなく、うんこだけをしていくのであった。

 

当然ナンバーは控えられてるのでマークされていて、三回目に来た時に出禁を食らってた。その部屋の掃除にあたらなくて幸いだった。

父の部屋の裏ビデオ

まだインターネットなど普及していない高校生の頃。

父の部屋からエロビデオの山を発見した。VHSのビデオテープに、飾りっ気のないピンクのラベルにタイトルが書いてあった。間違いなく無修正の裏ビデオだ。

 

父が見たものという複雑な気持ちもあったが、当時のエロへの好奇心が勝った。全部で10本くらいあり、無修正というだけで現在記憶にない程度の凡庸な内容だった。

 

そのうち一本だけ、未だに忘れられないものがある。明らかに内容が異色で、タイトルが「乳拓 まん拓 お尻拓」というものだった。

 

内容はタイトルの通りである。タイガーマスクを被った男優が、女優のおっぱいに筆で墨を塗って半紙を貼り、拓本をとる。これを尻と性器でも行う。登場人物は何故か終始無言なのが印象的だった。

そして三種類の拓本を並べて「こちらをビデオを購入いただいた方にプレゼント!」のテロップが流れた。無言で拓本を掲げる偽タイガーマスクは恐ろしくシュールだった。

 

これらの裏ビデオは再度見ようとは思わず、元の場所に戻しておいたが、ある時「おい、ビデオ見たのか?」と父に突然聞かれて答えに窮し、「ああ、こないだレンタルしたやつを見たよ」と返答になってない返事をした。

 

あの拓本プレゼントに応募した人はいるのだろうか。

白昼夢

父が、突然同居してた姉や姪に激怒して、しばらくするとケロッとしてそれを忘れているという事が何度かあった。調べると、典型的な認知症の初期症状だった。

 

自分を認知症とは認めたくない父は、病院の「ものわすれ外来」で診てもらっても「俺をボケ老人扱いしやがって」と不満をこぼしていたが、その一方で何かをあきらめている風でもあった。

 

東京に住んでいた自分は父を病院に連れて行く為に実家に戻った。二人きりになった時に、父は「最近、妙な白昼夢を見る」と訥々と話し出した。

 

父の寝室の窓が開き、昔の会社の同期の女性が窓からその時の姿のままでやってきて、姉と打ち合わせしてみんなで旅行に行く、というものだったらしい。

 

内容だけだとただの整合性のない夢の話だが、夢ならでは目覚めた時の「変な夢だったな」という感触は残らず、その白昼夢は現実と全く地続きだったそうだ。

そんなことが数回続き、自分に何か異変が起きているという自覚はあったようだ。

 

父の認知症は進行し、転倒したのが原因で硬膜下血腫を起こして入院した。

処置後に面会に行くと、暴れないように拘束された父は自分を息子と認識できず、「田中さん、僕は挨拶は結構ですよ。器じゃないですから」と笑いながら言ってきた。きれぎれの言葉の内容から、どうやら会社の朝礼で何か訓示を述べてくれと言われている状況の白昼夢を見ているようだった。

それが父との最期の時間だった。

隣りの庭

知人が隣の家の庭からいつも異臭がすると困っていた。

その家は高齢の老人夫婦が住んでおり、犬と猫を数匹飼っていて、特に猫は出入り自由にしていた。

 

庭からの異臭は恐らくその猫がフンをしてるか、犬の散歩に出ずに庭にフンをさせて片付けないからだろうと思っていた。隣りの庭にはやはりフンと思しき形状のものが見えた。いつも朝にその匂いがするので、文句を言ってやろうと早朝に待ち伏せして画像を撮って証拠を押さえる事にした。

 

そしていざ早朝に待ち構えた先で眼にしたのは、犬でも猫でもなく、その家の婆さんが自分の庭に野糞を垂れる光景だった。

知人は狼狽して、とはいえ証拠は押さえなくてはという事で婆さんの脱糞シーンを撮影はしたが、文句を言いに行くには憚れ、とはいえ迷惑の証拠を消す訳にもいかず、スマホ内にその光景が残ったままになっているらしい。

朝のトイレ

 ある会社に朝から打ち合せに行った。途中で便意を催したので、その企業が入っているビルのトイレに入ったが、大の個室は一つしかなく塞がっていた。

 

他に人がいなかったので待つことにした。すると、個室の中から「うぉぉぉぉん…うぅぅぅぅぅん…あああああああ…」と切なげなおっさんのうめき声が聞こえてきた。そのうめき声は一定間隔で発していた。踏ん張っている風でもあるが、痛みにこらえている風でもあった。痔か…。

 

そこに掃除のおばちゃんがやってきた。そこに響く「うぉぉぉっ……あああっ…うぅぅぅっ…」というおっさんのうめき声。おばちゃんは待っている自分に目配せをして無言でゆっくりと首を横に振った。

そのジェスチャーだけで、「ここのトイレは毎朝このおっさんに占拠されてるの。しばらく開かないから別のトイレに行きなさい」というおばちゃんのメッセージを受け取った。そこには完璧な以心伝心があった。

 

あのビルのトイレは、まだあのおっさんに毎朝占拠されているのだろうか。